Anybody Have A Map?
作詞・作曲 Benji Pasek & Justin Paul
ブロードウェイで2016年に初演のミュージカル DEAR EVAN HANSEN の劇中歌の1曲目。エヴァン(主人公)の母親・ハイディと、エヴァンの同級生コナーの母親・シンシアがそれぞれの場所で心情を吐露する曲。あと初っ端の曲なので登場人物紹介(上記4人に加え、コナーの妹ゾーイ、父ラリーが出てくる)みたいな役割も兼ねていると思う。別々の場所にいてお互いのことも知らない、でも共通した何かを持っている2人が同じメロディを歌う、というのが私はすごく好きなのでこの曲も好き。
原曲はこちら。
こっちは母親たち(ハイディとシンシア)のキャスト4人で歌うバージョン。4人で会話しているみたいで良いアレンジ。
以下はひとつめの動画(サウンドトラックとして公開されているバージョン)にのっとって歌詞とセリフの日本語訳作ってみたもの。本来の舞台ではセリフとかもう少し間に長めに入っています。
*「かぎカッコ内はセリフ」
* [このカッコの中は音割り]
ハイディ:
「あの自分自身への手紙ってやつは書いてる?
親愛なるエヴァン・ハンセンへ、今日はきっといい日になる、なぜなら…」
エヴァン:
「ああ、うん」
ハイディ:
「こういう手紙は大事よ、自分に自信を持てるようになるから」
エヴァン:
「そうかな」
ハイディ:
もっと前向きになれるはず ね?
もっと世界を信じられるはず
チャレンジしなきゃ
やらなきゃわからない
切ろう 新しいスタート
ハイディ:
「そうだ、友達に言ってギプスにサインしてもらったらいいじゃない?どう?」
エヴァン:
「ああ、いいね」
ハイディ:
「いつも誇りに思ってるからね」
エヴァン:
「ああ、ありがとう」
ハイディ:
繰り返す 空っぽなコミュニケーション
何か言いたくても空回り
ああどうしたらいい 道が見えない
どうしたらいい
どうしたらここから抜け出せるの? [ここからーぬーけだーせるーのー]
あの子のことわかるふりしてるけど
わからない
誰か地図を持ってないの? [だれーかーちず、をもってーなーいーのー]
道は見えない [みちーはみーえーなーい]
ただ迷い続けてる
シンシア:
「いよいよ最終学年ね、コナー!初日から欠席なんてしないで」
コナー:
「言ったろ、明日行くって」
ラリー:
「言っても無駄だ、見ろ、ハイなんだろ」
ゾーイ:
「絶対ハイだね」
シンシア:
「ハイのまま学校に行くなんてやめて、コナー!」
コナー:
「ああ、じゃあ行かない!ありがと、母さん」
シンシア:
また声は届かない今日も [またこえ、は、とどーかーなーいきょうも]
(ラリー: 「また渋滞か」)
どんな思いやりもこぼれ落ちる [どんなおもーいやりーも、こぼーれおちる]
(ゾーイ: 「ミルクもうない!」)
まるで 迷路
いくつも道試した
でもすべて行き止まり
(ラリー: 「そろそろ行くよ」)
(ゾーイ 「コナー行かないなら置いてくから」)
ハイディ& シンシア :
どうしたらいい
どうしたらここから抜け出せるの?
あの子のことわかるふりしてるけど
わからない
誰か地図を持ってないの?
道は見えない
見えないまま
見えない
見えない
見えないまま
ただ迷ってる ずっと 1人で
*文脈補完
ゾーイの「ミルクもうない」は、ゾーイがミルクをコーヒーか何かに注ごうとした時の台詞。元のセリフはConor finished the milk, でまあ2秒足らず?でよく情報量が入る言語だこと…という気持ちになる。こういうサラッとしたかけあいがスマートに曲中で行われる感じは、英語版ですきなところのひとつ。
自分でいちばん気に入ってるのは、最初の方のハイディパートのこの部分。
「チャレンジしなきゃ
やらなきゃわからない
切ろう 新しいスタート」
「やらなきゃわからない」が原詞の 〜〜 の意訳でありつつ音割りにもはまっていて音程も歌っていて気持ちいい(気がする)のでここがいちばんお気に入り。あと、最後の「スタート」を原詞のstart の音割りのままカタカナ発音で残してるの、「翻訳されたミュージカルの日本語歌詞」感すごくないですか!笑 海外ミュージカル好きな人に伝わってほしい… 我ながら「こういう日本語訳詞、あるよな…」と思った。
あと、「ああ どうしたらいい (原詞: I’m kinda coming up empty)」 、「道は見えない (原詞: I’m flying blind)」 のところ、それぞれの末尾の母音を日本語と英語で合わせられたんじゃないかなあ、と思っている。
ちなみに原詞でいちばん好きなのは、シンシアのソロの初めの方、
Pour another cup of coffee and watch it all crush and burn
(意訳:もう一杯コーヒーを淹れてあげても、結局それがめちゃくちゃになるのを見ることになる)
のところ。訳詞ではコーヒーのイメージを入れて「こぼれ落ちる」にしてみたけど、この原詞に滲み出る虚無感には辿り着けてない。しかも”another” cup of coffee と言っていて、これまで繰り返しコーヒーをひとについであげてきた様子を想起させるあたり、シンシアが主婦であること、おそらく一家のケアを一手に引き受けてる状況であることを踏まえた比喩で、すごくよくできた歌詞だと思う。
あと最後の2人デュエットに入る前のキラキラシャラシャラ感のある伴奏、すき。不安、やるせなさ、虚無、の歌のはずなのに、妖精にでも変身するのかくらいのキラキラ感じゃないですかここ。
*ついでに語る
親どうしがお互いを知ってたり仲良かったりするわけではないけどそれぞれの場所から同じメロディーを歌う感じが好きと書いたけど、逆に子どもどうしだと、ヘアスプレーの Mama I’m A Big Girl Now とかがあるなと思った。あの曲も好き。あと完全にネタ扱いだけどミーンガールズでグレッチェンとミセスジョージが同じメロディー(What’s Wrong with Me?) を歌うのとかもツボ。