singalong!

日記と、観た舞台についての文章を書きます。ロンドンにいます。

【ミュージカル】HEATHERS(ヘザース)ハイスクールは地獄。それでも、私は私たちの善性を信じる②

①はこちら。なんかすっかり長くなってしまった... 

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ここから続き

 

なぜヘザースに入れ込んだかというと、まずオフブロードウェイ初演でベロニカを演じたBarrett Wilbert Weed が好きだった。2018年ごろ、インターネットでBarrett の出演歴を遡り、たどり着いたのがヘザース、そしてその楽曲のうちの一つの “Candy Store”。この曲自体はBarrettは歌わないんだけど、これなんか沼な気がするな… と思いつつサントラ、YouTube で他の楽曲を探し、あらすじを調べ、原作映画を見たあたりでこれは沼だと認めざるを得なくなった。一回もフルで観たことないのに… オフブロードウェイで上演していたのは2013年、いくら今ハマったとはいえもう観れないんだよな〜と思っていたら2021年、West Endでロングランが始まっているではありませんか!

 

 

劇中最初の楽曲であるBeautiful はベロニカのI want song でありながらキャラクター紹介ソングとしても完璧に機能しているし、この8分でストーリーの核となる「ベロニカがヘザースに加入」が曲と少しの台詞の中ですっきり理解できるのがすごい。ヘザー、ヘザー、アンド ヘザー… というアンサンブルの憧憬と称賛と妬みが入り混じった感じの神妙なコーラスに続いて登場するヘザースの3人はとっても神々しく、禍々しく見える。最後のベロニカベロニカ!コーラスで大喜びのベロニカもかわいい、かわいいんだけどこの後の展開を思うと少し胸が痛くもなるのでした…。

これに続く2曲目が、私が最初にどハマりしてしまった “Candy Store”。内容としてはヘザースが「おう、うちらの仲間でいたい(そして安寧に高校生活過ごしたい)ならあいつのこと虐めてきな!」ってベロニカを恫喝するみたいな内容でしかもその虐めの相手がベロニカの親友であるマーサ。ひどい。なんか書いていてしんどくなってきたが、楽曲のキャッチーさ、歌割りや掛け合いを通した3人のパワーバランスの描写、何より最強パワー女の子3人組みたいなコンセプトが私は大好きなので、結局曲としてめちゃくちゃ好きになってしまった。ウェストエンドで観劇した時、ヘザー・チャンドラー(赤ヘザー)の “Are we gonna have a problem?” という曲前の一言目から観客の歓声が上がるのが楽しかった。みんなこの曲待ってるんだよね。野外イベントなど、劇場よりもフリーで観客がノリでsing along (一緒に歌う)ができちゃうような状況だと、この曲前のヘザーのセリフをファンたちが一斉に一言一句をヘザーとシンクロして叫ぶ。すごい。ヘザースは若い層、特に中高生を中心にかなり人気があって、劇場にヘザースやベロニカ、その他キャストのコスプレをしてくるファンも結構いて、なんというかファンダムに独特の熱量があり、ファンのオタク度が高い。うん。

動画はオフブロードウェイオリジナルキャスト。この3人のケミストリーも素晴らしいと思う。Barrett がちらっと映ってる。

Candy Store:
https://www.youtube.com/watch?v=v-fjBtfbADA

 

ヘザースには魅力的なソロ曲も多い。Freeze Your Brain, Dead Girl Walking, Never Shut Up Again, I say no, Kindergarten Boyfriend など… 全て書きたいんだけど、特に私が好きなのが I Say No で、NOをいう練習として何かの課題曲にしてほしいくらい良い曲。ミュージカルにおいて恋愛、失恋の曲は数あれど、ここまでNOをはっきり突きつけ繰り返す曲ってあんまりないんじゃないかなと思う。動画ではウェストエンドオリジナルキャストの Carrie Hope Fletcher が歌っている。好き。

I Say No:
https://www.youtube.com/watch?v=zvfW-qqQ7iI

 

 

実はヘザースに立ちこめるのは「高校生活といういっときのきらめき」ではなく、社会の不条理とそれに対する絶望だ。そして時々絶望の真ん中には、なぜか人を惹きつける黒々とした光があったりする、ということが、ヘザースという存在や前述したJ.D. の「ヤバさ」を通して描かれている。だけどそれは希望の光なのか?というのをベロニカは問われることになる。J.D. には(そして多分ヘザーとヘザーとヘザーにも)、その考え方や願望を身につけるようになるまでの背景がある。しかしそこに入れ込み、黒い光に惹かれることで大切な存在を見失ってしまうことも、ベロニカは知る。だからこの作品はある意味めっちゃ怖い。いやある意味というか普通にサイコホラーかスリラーみたいな要素はしっかりあり、だけどあくまでもダークコメディとして宣伝されているだけあって、ポップ、ダーク、シュール、シリアスの塩梅が本当に絶妙な中毒性を生み出している。最初観た時は(ストーリー大体知ってたのに)要所要所でえ、これ笑っていいやつ?と乾いた笑いだけが出ていた自分が、観劇を重ねるうちに普通に他の観客と一緒に爆笑してしまっていたのもちょっと怖い。

 

 

West End でのロングランは2023年9月で残念ながら終わってしまったのですが、DVD/Blue-rayが!出た!!!!日本からも購入できるのかな…

まだ手元にはないんだけど、私はこのMaddison Firth の演じたヘザー・チャンドラーがかなり好きだったので嬉しい。