singalong!

日記と、観た舞台についての文章を書きます。ロンドンにいます。

【観劇記録】Hamnet(ハムネット)  内助の功とは言わせない

(観劇したのは2月3日)

場所:Garrick Theatre

 

マギー・オファーレルの同タイトルの小説が原作。

薬草の知識が豊富で自然や「向こう側の世界」と会話することのできるアニェスは、言葉で物語を書くウィリアムと出会う。両者それぞれの家族との関係を描きつつ、アニェスとウィリアムの形成していく家族、そこに訪れる別れ、わだかまり、雪解けを描く。

女性、特にその出産を神秘化する部分のある物語の運びや演出が気になったものの、アニェスがウィリアムの陰で家に閉じ込められる「かわいそうな」妻という描き方に落ちていないところはよかった。作家のシェイクスピアとその妻/家族の話、ではなく、アニェスとウィリアムのパートナーシップ/家族の話。

 

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もしウィリアム・シェイクスピアが主役の伝記的な作品だったら、彼の成功の陰での家のシーン(特にある人物の死)が鬱々と暗く描かれそうなところだけど、これは家のシーンをメインに尺が取られて、家の領域に文字通りスポットライトが当たっている作品。アニェスや子どもたちの存在がウィリアムの劇作家としての活動に影響を与えている、アニェスの人生と「シェイクスピア」の人生が地続きになっているという描き方がよかった。それも、「内助の功」という落とし方ではなく、2人の人生や成したことが合わせ鏡のように互いに影響している、となっているのがいいんだと思う。すごい劇的に盛り上がるとかそういうシーンがあるわけではないけど、土の匂いと静かな時間の積み上げの力強さを感じるドラマだった。グローブ座(シェイクスピア・グローブ)の建設の話が出るところはロンドンの演劇オタクに刺さるようなセリフ運びになっていた。

あと、プログラムで多分読んだのだけど、ウィリアムの両親が登場することで、ウィリアム・シェイクスピアを(偉人というアイコンとしてでなく)人間として描くことができているという見方があってなるほどなと思った。ウィリアムの父親は、家業に興味がないウィリアムに対して粗雑な関わり方というか扱いをする人物として描かれていて、そのあたりのシーンは観客からしたらウィリアムが結構不憫な青年に見えるので確かに新鮮だった。