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日記と、観た舞台についての文章を書きます。ロンドンにいます。

【観劇記録】My Neighbour Totoro (となりのトトロ) 舞台だから浴びられるありったけのノスタルジア

となりのトトロの舞台版、My Neighbour Totoroを観てきた。初演の時にチケットを取り逃したので再演を観られてとても嬉しい!

 

劇場はロンドンの Barbican Centre(バービカン・センター)。地下鉄からだとBarbican 駅もしくはMoorgate 駅から徒歩6-8分。Moorgate 駅から行くと、ビルや駐車場の合間を縫っていく感じなのでやや道が分かりづらい。上演時間は休憩込みで3時間くらい。

2022年初演当時かなり話題になり、オリヴィエ賞9部門でノミネート、うち6部門受賞している。メイ役のMei Mac は主演女優賞にノミネートされ、今回の再演でも続投。

 

 

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観劇後のハピネスレベルでは過去トップ3、もしかしたら最高かもしれない... と思うくらい、すごくすごくよかった。魔法みたい!!と声を上げてわーーっと手を叩きたくなる感じ。ありったけのふしぎ成分の詰め合わせ。制作側の「この世界観がいとおしいよね。トトロが大好き。あなたのことも大好き!!!」というパワーとラブをひしひしと感じさせる舞台だった。幸せと懐かしさと寂しさでいっぱい。一時帰国直後の観劇だったので、さすがにこのタイミングで懐かしいとか帰りたいとかはまだ思わないかな〜とか思っていたけど、むしろ郷愁の念がしっかりブーストされてしまった。私はメイの「とった!!!!!(バチン!!)」と、カンタの「おまえんちおーーばっけやーしきーーーーー」がなんかすごい好きなので、それらのシーンを見届けられて感無量。サツキ、の発音がサツゥーキ、ではなくサツキ、だったのも良かった、というか安心した。私は映画を幼少期に覚えるくらい観たというわけではないので、映画のコアファンだとまた感想が違ってくるのかもしれないし、ヨーロッパの眼鏡を感じるかな〜というところはゼロではなかったけど、それを補ってありあまってしまうノスタルジアとファンタジーのあたたかさ。個人的にはトトロの映画はけっこう怖い雰囲気というか、人間でないものがスッと横にいる... という不気味さがあって(いやまあトトロってそういう話だから当たり前といえば当たり前)、大学生で友達と一緒に改めてみた時は「こんな怖い感じの話だっけ!?」と何度か再生を止めようかと内心思ったくらいビビった記憶があるのだけど、舞台版はトトロのもふもふ生物感、懐かしさ、ほっこり、ファンタジー感の方にすこーしだけ重点が移った演出になっていて、不気味成分は若干薄れていたように感じた。だから、あの不気味さがいいんだよ!!!という人にとってはちょっとほっこりまとまりすぎだったりするのかもしれないし、私みたいなビビり屋にとってはちょうどいい塩梅になっていたのかもしれない。とはいえ、ストーリーラインは原作の通りであることには変わりないし、舞台で聴く劇中歌はかなりエモーショナルで、映画と一緒に育った、という人にもおすすめしたくなる舞台だった。メインビジュアルを初めて見た時は緑すぎて心配になった(ウィキッドの色だよそれは)けど、総じて満足度のとても高い観劇だった!舞台で浴びたいもの、舞台だから浴びたいものを浴びられる作品だと思う。

 

〜以下、具体的な演出や出てくる歌に言及あり〜

 

はいはい!いってきまーす!いただきます!うん!おねえちゃん!とか、ところどころで日本語の台詞が使われていたり、歌も日本語と英語半半だったりしたので、「見慣れた作品が遠くにいっちゃった…」みたいな気持ちになることは少なくとも私はなかった。というか、トトロがトトロのままロンドンの舞台に出現していることに素直に感動していて、あまり観劇中はそういう気持ちの入る隙間がなかった。ただ前述の通り「あ、ここはちょっとヨーロッパの眼鏡を感じるな」みたいなところもゼロではなく、例えばお辞儀とかはそんなにしなくていいんじゃないかな... という頻度と角度だった。あと着物の袖というか袂の幅が狭くて、ゆったりした洋服くらいの幅感になっているところ。というか、トトロ以前にこっちの舞台で着られる着物はいつもそうなっている印象があり、トトロですらこうなのかー、とそこはちょっと残念。だいたいの舞台で起こっているこの現象、なんらかの経緯があるんだろうか?

 

キャラクターやストーリーラインは基本的に原作の通りであるものの、やはり原作にないシーンも出てくる。私はいちいちシーンを比べられるほど原作を観たわけではないのだけど、原作以上にカンタがコメディリリーフの役割を担っている感があり、前述した不気味感の軽減・ほっこり感の増長に貢献していた。

 

パペットについて。トトロ、ニワトリ、すすわたりなど人間以外の生き物は基本的にパペット。パペットは黒子のような存在(風子 [kazego]、とプログラム上では呼ばれていたので以下そう表記する)が操っていて、この風子が物語の要所要所で、その黒子のような衣装のまま人間を演じる演出があった。例えばサツキのクラスメイトたちはカンタ以外全員風子で、サツキちゃーんとあいさつにやってくるクラスメイトは赤いランドセルだけ背負った風子、他にもサツキとメイの母親を診る医者も風子が「演じて」いた。医者に関しては、1人の風子が聴診器を他の風子に渡されて慌てて医者に扮する、というメタ的な演出があって、コメディっぽい要素になっていると同時に、森の精霊のような存在がかわるがわるメイたちのことを見守っている、という演出にもなっているのではないかと思った。トトロのパペットがどんなものかはトップシークレットになっていて、予告にも出てこないのでここでは描写しないけれど、大きいトトロのあくびの振動は舞台で浴びる価値がある!!!ということだけ書いておきたい。

 

この舞台は基本ストレートプレイなのだが、ところどころで「歌い手」という立ち位置の役がシーンに寄り添うように歌う場面がある。ジブリのアニメーションの、「サウンドトラック」もしくは「イメージ・ソング集」の中に入っている楽曲が何曲か使われていて、覚えている範囲だと、「風のとおり道」「お母さん」「まいご」「すすわたり」が、歌い手によって歌われる。

歌い手は基本的にオーケストラとともに舞台の後方かつ上方のバルコニーっぽいところにいるのだけど、「お母さん」(サツキたちがお母さんのお見舞いに行くシーン)、「まいご」(メイが迷子になるシーン)では舞台上に降りてきて、キャラクターたちに語りかけるようにして歌っていて、いろんな感情を喚起してきた。独特のノスタルジアを放つ楽曲たちを舞台で浴びているだけでもこう、来るものがあるのに、キャラクターたちの感情を何かのあたたかい力が包み込むような演出(前述の黒子の演出とも響きあう)がこちらの感情もゆさぶってくるし、ロンドンで東アジア・東南アジア系の役者がこんなにたくさん、真ん中に立ててる舞台は他にないよなあとか、当たり前かもしれないけど日本語で歌うように作られた歌にはやっぱり日本語の響きがきれいに乗るんだなあとか現実的な感動も相まってしまって、はああ。特に「まいご」の「かくれんぼがだいすき なきむしのあまえんぼ 返事して お願いだから」というところ、歌い手がバルコニーから身を乗り出すように歌っていて、しかもそれまでは英語の歌詞だったのがここで日本語に切り替わるところだったので余計に何かのスイッチが押されたように涙が出そうになった。一応ストーリーは知っているのに、メイ無事でいての気持ちでいっぱい。

すすわたりの歌、観劇後にしばらく頭の中で止まらなくなった。家に帰ってからも、イメージ・アルバムに入っているバージョンをつい再生してしまう。すっすすすすわたり〜〜