singalong!

日記と、観た舞台についての文章を書きます。ロンドンにいます。

【日記】2024年1月9日〜1月12日 帰る、来る

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一時帰国終え、ロンドンに戻る。両親が羽田まで見送りに来てくれる。来る途中で川沿いに見えた朝焼けが透き通った青とオレンジとほんの少しピンクの連続体で、昨日の新宿や少し前の東高円寺の交差点でみた夕焼け、舞子でみた日の入り、赤羽でみたオレンジとピンクの雲の続きのようだった。すべてがひとつの絵画みたい。ヨーロッパの空は雲、日本の空は色。

飛行機の席は通路側にしてもらったけど、窓から見える飛行機の羽、下に広がる永遠に続く湖面みたいな空をやっぱり窓にへばりついて見ていたくなってしまった。夜の飛行機は水族館みたいな色。みんなが同じ方向を向いて、それぞれの世界に深く潜る。深海魚。

 

機内が明るくなると魚も人間になる。光に誘われる生き物。あと20分で着陸という頃に、夕張メロンみたいなオレンジ色の光が、明るい機内の窓側の壁に、開いた本のページにぱたぱたと落ち始め、ああ着いたんだな、また「来た」んだな、と思った。今度のは夕焼け。帰る場所がある時、別の場所に「来る」ことができる。日本に着く時はイギリスが帰る場所で、イギリスに着く時は日本が帰る場所。

 

部屋に帰ってきた。初めてフラットに入った日みたいな匂いがする。着いてみるとこれはこれでしっくりきて、英語のYouTubeチャンネルを自然と聞きたくなる。どっちの家に帰ってきても、ルーティンになっていたことをするとスッと戻ってくる、順応してしまうものなんだなあ。

 

1/10

なんか寂しい!でも帰国中の記憶とお土産があるから満たされている気もする。やっぱり帰国前の1,2ヶ月は私は日本が恋しくなっていたんだと思うし、今もすでにまあまあ恋しいのかもしれない。帰国中はごはんを誰かと食べる、誰かと一緒に出かけるのがデフォルトだったから、いきなりデフォルトが1人になったのが寂しい。今行きたい本屋さんが日本にあるのも寂しい。朝ドラ見たい。でも、手軽に食べたいものを適当にキッチンで作るのはひとりの方が楽。自由の方向に歩いていきたい。推進力。2024年、心地よく、推進力をもって、自由の方に歩いていく。自分を極めて自由になる。というのが抱負。

 

去年の9月以降の数ヶ月は、防衛本能が強くなっていたように思う。楽しいことも、新しいことへの挑戦もたくさんあったけど、これ以上傷つかないように、自分を守るために、という心づもりが無意識のうちに強くなっていたような。丸裸の木みたいな、葉っぱを落としきってるという感覚もあった。今振り返ると、自分には自分をどうしようもできないという感覚で、自分を守ろうとしていたところがあったように思う。今は、推進力を自分で生み出しながら進んでいけると知っている、そこに自分を癒すあたたかさがあると信じたい。

 

日本では書く、ロンドンでは踊る、身体になりやすい気がする。いや、でもこれは単純に環境というか状況の違いなだけかもしれない。

 

1/11

午前3時から寝られず、6時半にベッドから出る。昨日から置いておいた鰹節から煮出したスープがいい味になっている。そうめんを茹でて温かいそうめんスープにして朝ごはん。こんなにあっさりとやさしい味のするものを自分で作れることにびっくり。8時前、朝焼けが窓から見える。夜型になりがちなのでこの景色を見たのは1年少し住んでいるのに数回目。このために東向きの部屋に住んでいるのかと思うような透明な青、ピンク、オレンジのグラデーション。羽田で見たのと似ている。午後2時から、トトロの舞台(My Neighbour Totoro)を観に行く。ものすごくものすごくよかった。懐かしさと多幸感と寂しさでいっぱい。トトロの映画を何回も見たわけではないけど、かなり原作に忠実に作られている気がした。観る前は、ヨーロッパ視点を感じてしまってそれがノイズになるのでは、と結構不安だったのだけど、はいはい!いってきまーす!うん!とか、ところどころで日本語の台詞が使われていたり、歌も日本語と英語半半だったりして、またそれに(オリエンタリズム的な)嫌な感じがあるわけでもなく、うまく接続できている感じ。思っていたよりずっと世界観に集中できた。カンタ、やっぱりいいキャラクターだなあ。「風のとおり道」とトトロのあくび、舞台で浴びる価値がある!!!!!

 

1/12

一時帰国直後だからか、トトロの影響か、ホームシック的なものになっているかもしれない。誰かに会いたいとかでも、「一時帰国楽しみだなあ」でもなく、「なんとなく寂しくて日本が懐かしい」みたいな気持ちは今まであまりなかったので戸惑う。というか、数日前までいたのに。ホームシックなんてなってたまるかと思っているところがあったので、何かに負けた気がするけどそもそも勝ち負けじゃない。それは分かっているのになんだか悔しい。日本に灰色の空気ばかり感じて、自分の一部が生きていられない感覚があって、日本を出たくてしょうがなかった、その時の自分を裏切っているような感じ。

 

午後まで、スーツケースから解放された本と服の居場所探し。3時ごろに急に眠気。歩いてウェイトローズ(スーパー)に行って、ここはもうそれなりに住み慣れた街で、一時帰国のほうがイベントになってたんだな、とぼんやり思い、冷えた空気がしみる。突然ニューヨークを歩いていた時のことを思い出す。あの時歩いたニューヨークと同じにおいがする。寒くて、もこもこ着込んで、自分の荷物を引き寄せて、見慣れない街にわくわくして、寒くてもごちゃごちゃでもすべてがまぶしかった。今住んでいるエリアは、まぶしさと見慣れた感じ (familiarityというのがしっくりくる) が混ざり合って、でも反目もしあっていて、その境目のぼんやりしたところを平均台を歩くように私は歩いている。ニューヨークのにおいは街のにおいというよりしんとした冬の空気のにおいだったのかもしれない。東京の冬の空気はもっと乾燥していて透明で、このにおいを感じたことはない気がするなあ。歩いていて、あー、ブログ書こう、書こう、とひしひしとした決意を醸成中。もっといいこと、何か標語になるようなことを考えていた気がするんだけど、思い出せない。

割ったチョコレートの断面が山岳みたい。